「まあ、入れ」
「はあ。ここは船長室ですか」
「ふん、それがどうした」
「いやに綺麗ですね。へえ、今夜はなにか始まるんですか。これは小型映画の機械じゃないですか」
竹見は、卓上にのっている小型映画の映写機をさした。
「ははあ、おまえ、なかなかインテリだな」
「いえ、わしは活動の小屋で、ボーイをしていたことがあるんで」
「なんでもいい。面白いものを見せるといったのは、サイゴンに入港する前、お前にぜひ見せておきたいフィルムがあるんだ。今うつすから、まあそこで見ていろ」
「えっ。船長さん、おどかしっこなしですよ」
竹見が、椅子のうえにこしをおろすと、室内がぱっとくらくなって、スクリーンに映画がうつりだした。海の映画だ。
「あっ、あの船は!」
竹見は、おもわず、大きなこえを出した。