巨人金庫の口は、遂に開いた。
帆村の解読した暗号は一字も間違いがなかったのである。
金庫の中には財宝は一つも残っていなかった。そして中には、実に私たちの予想だにしないものが入っていた。何?
それは瓲数で云って、三瓲あまりの大爆薬が入っていた。この思い懸けない遺留品には、金庫を覗きこんだ係官たちも、「呀ッ」といって一斉に出口に逃げだしたほどだった。――いい塩梅に精巧なクロノメーター式の導火装置は、帆村と私の手で取除くことができた。だが爆発までに余すところはたった三時間だったのである。もしも帆村の解読が三時間遅れていたとしたらどうなったであろうか。江戸昌はひどいことをする。
「この大爆発を仕懸けて、江戸昌はどうするつもりだったろう」と私は帆村に訊ねた。
「これが江戸昌の恐るべき智恵なんだよ。彼は財宝だけでは慊らず、その上この巨人金庫を爆発させて黄血社の幹部連を皆殺しにするつもりだったのだ。ね、判るだろう。この金庫の上には、同じ金庫を硯う黄血社の巣窟があったんだ。暁団の秘密も一瞬にガス体にするつもりだった。……さあ出よう。もうこんなところには長居は無用だ」
帆村は私を促して外へ出た。
中古同人誌 竹薮に矢を射る