「あら変ね、何がそんなにおかしいこと」
といいながら、銚子の裾の方を器用に支えて、渡瀬の方にさし延べた。渡瀬もそれを受けに手を延ばした。親指の股に仕事疣のはいった巌丈な手が、不覚にも心持ち戦えるのを感じた。
「でもおぬいさんは星野さんに夢中なんですってね」
女郎上りめ……渡瀬は不思議に今の言葉で不愉快にされていた。「おぬいさん」と「夢中」という二つの言葉がいっしょに使われるのが何んということなしに不愉快だった。人の噂からおぬいさんを弁護する、そんなしゃら臭い気持は渡瀬には頭からなかったけれども、やはり不愉快だった。
「焼けますかね」
渡瀬は額越しに睨みかえした。
「それはお門違いでしょう」
今度は奥さんの方が待ち設けていたようにぴったりと迫ってきた。
「ははあん、この女はやはり俺をすっかり虜にした気で得意なんだが、おぬいさんに少々プライドを傷けられているな……ひとつやってやるかな」
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