わたしは起ちあがって

 わたしは起ちあがって、かの手紙をテーブルの上に置いて、まだ熾んに輝いている火をかきおこして、それにむかってマコーレーの論文集をひらいて、十一時半頃まで読んだ。それから着物のままで寝台へのぼって、Fにも自分の部屋へさがってもよいと言い聞かせた。但し、今夜は起きていろ、そうして私の部屋との間のドアをあけておけと命じた。
 それから私は一人になって、寝台の枕もとのテーブルに二本の蝋燭をともした。二つの武器のそばに懐中時計を置いて、ふたたびマコーレーを読み始めると、わたしの前の火は明かるく燃えて、犬は爐の前の敷物の上に眠っているらしく寝ころんでいた。二十分ほど過ぎたころに、隙もる風が不意に吹き込んで来たように、ひどく冷たい空気がわたしの頬を撫でたので、もしやあがり場に通じている右手のドアがあいているのではないかと見返ると、ドアはちゃんとしまっていた。さらに左手をみかえると、蝋燭の火は風に吹かれたように揺れていた。それと同時に、テーブルの上にある時計がしずかに、眼にみえない手につかみ去られるように消え失せてしまった。
税理士 神戸 水魚の交わり

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