貴子ははっとした。 「チマ子をくれって、あなたあの子に……」 惚れてるの――と、あとの方はあわてて冗談にしてしまった。
「阿呆ぬかせ。――しかし、あの子は面白い子や。おれの顔を見ると、いつも白い侮辱したような眼で、にらみつける。おれはああいう眼を見ると、なんぼでも、おれの財産ありったけでも、出して、おれの自由にしたい――いう気になるンや。あはは……」 章三は三十五歳に似合わぬ豪放な笑いを笑ったが、しかしふと虚ろな響きがあり、おまけに眼だけ笑っていなかった。それが油断のならぬ感じだ。 「金さえ出せば、女はものになると……」 思ってるのねと、貴子は浴衣の紐を結んだ。 「君のような女がいる限り、男はみなそない思うやろ。君は男と金を同じ秤ではかってる女やさかいな」 「いやにからむのね」 「いや、ほめてるんや。女はみなチャッカリしてるが、しかし君みたいに、徹底したのはおらんな。男に金を出させといて、その男を恨んどるンやさかい、大したもンや」 「女ってそんなものよ。自分の体を自由にする男は、ハズだってどんなに好きなリーベだって、ふっと憎みたくなるものよ」 「つまり、おれなんか憎くて憎くてたまらんのやろ」 「あら。あなたは別よ」 「別って、どない別や」