「だって、そうじゃありませんか、その気味の悪い、厭な感じ、」
「でも先生は、工合の可いとか、妙なとか、おもしろい感じッて事は、お言いなさるけれど、気味の悪いだの、厭な感じだのッて、そんな事は、めったにお言いなさることはありません。」
「しかしですね、詰らない婆を見て、震えるほど恐がった、叔母さんの風ッたら……工合の可い、妙な、おもしろい感じがする、と言ったら、叔母さんは怒るでしょう。」
「当然ですわ、貴郎。」
「だからこの場合ですもの。やっぱり厭な感じだ。その気味の悪い感じというのが、毛虫とおなじぐらいだと思ったらどうです。別に不思議なことは無いじゃありませんか。毛虫は気味が悪い、けれども怪いものでも何でもない。」
「そう言えばそうですけれど、だって婆さんの、その目が、ねえ。」
「毛虫にだって、睨まれて御覧なさい。」
「もじゃもじゃと白髪が、貴郎。」
「毛虫というくらいです、もじゃもじゃどころなもんですか、沢山毛がある。」
「まあ、貴下の言うことは、蝸牛の狂言のようだよ。」と寂しく笑ったが、
「あれ、」
寺でカンカンと鉦を鳴らした。
「ああ、この路の長かったこと。」
桶川 歯科 命あっての物種