――ワタクシ、オマエガ、キライダ!」
――なぜです?」
――オマエハ、モウ、ソレヨリ、オオキクナッテハ、イケマセンヨ。」
――なぜです?」
――ワクシハ、オマエト、イッショニ、クラスコトガ、デキナクナルモノ。」
――なぜです?」
姉は私の硯箱を持って来た。私は眼に一丁字もない彼女が何をするのかと、訝(あやし)んだ。ところが姉は筆に墨をふくめて、いきなり私の顔へ、大きな眼鏡と髯とをかいた。それから私を鏡の前へつれて行った。
――立派な紳士ですね。」と私は鏡の中を見て云った。――
――ゴラン!ソノ、イヤラシイ、オトコハ、オマエダヨ。」
姉は怯えた眼をして首を縦に振った。
私は姉をかき抱いて泪ながらに、そのザラザラな粗悪な白壁のような頬へ接吻した。姉は私の胸の中で、身もだえして唸った。