「大丈夫か。」
「ほほほほ。」
とちとてれたように笑うと、身を廊下へ引くのに、押し続いて境は手拭を提げて出た。
橋がかりの下り口に、昨夜帳場に居た坊主頭の番頭と、女中頭か、それとも女房かと思う老けた婦と、もう一人の女中とが、といった形に顔を並べて、一団になってこなたを見た。そこへお米の姿が、足袋まで見えてちょこちょこと橋がかりを越えて渡ると、三人の懐へ飛び込むように一団。
「御苦労様。」
わがために、見とどけ役のこの人数で、風呂を検べたのだと思うから声を掛けると、一度に揃ってお時儀をして、屋根が萱ぶきの長土間に敷いた、そのあゆみ板を渡って行く。土間のなかばで、そのおじやのかたまりのような四人の形が暗くなったのは、トタンに、一つ二つ電燈がスッと息を引くように赤くなって、橋がかりのも洗面所のも一齊にパッと消えたのである。
と胸を吐くと、さらさらさらさらと三筋に……こう順に流れて、洗面所を打つ水の下に、さっきの提灯が朦朧と、半ば暗く、巴を一つ照らして、墨でかいた炎か、鯰の跳ねたか、と思う形に点れていた。