御手洗を前にして

 御手洗を前にして、やがて、並んで立った形は、法界屋が二人で屋台のおでん屋の暖簾に立ったようである。じりじりと歩を刻んで、あたかもここに位置を得た。袖姿見は、瞳のごとく背後ざまに巨なる銅像を吸った。拳銃は取直され、銃尖が肩から覗いた……磨いた鉄鎚のように、銅像の右の目に向ったのである。
 さすがに色をあらためて、
「気味が悪かろうとは、きみだから言わない――私が未熟だから、危いから、少し、そちらへ。」
「着ものを脱いで、的にも立ちかねないんですがね。」
 と、自若として、微笑ながら、
「あなたの柄だと、私は矢取の女のようだよ。」
「馬鹿な事を――真剣だ。」
「あなた。」
 と面を引緊めた。
「…………」
「一つは射てますわね。……魔のお姫様の直伝ですから。……でも、音がするでしょう、拳銃は。お嬢さんが耶蘇の目を射た場所は、世界を掛けての事だから、野も山もちっとこことは違うようです。目の下が、すぐ町で、まだその辺に、人は散り切りません。天狗が一二枚もみじの葉を取ったって、すぐ山巡吏の監督が出て来るんじゃアありませんか。――この静さじゃ、音は城下一杯に谺します。――私にその鏨をお貸しなさいな。」

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