児童が書物が好きなのは此上も無い結構な咄、ドシ/\読ませるが好い。勿論、偶には悪い事もあるが、総て害があるのを恐れてゐては何もさせられぬ。怪我をしてはならぬ、イタヅラをしてはならぬと、一々心配してゐたら手足を縛つて真綿にでもくるんで置かなければなるまい。頭の柔かな児童は始終踏み違ひをしないやうに導いてやらねばならぬから、書物を当てがうにも多少の注意を要するが、厳ましく云つて禁止する必要は少しも無いのだ。
夫れに就て、前にも日本の家庭には書斎が無い家が多いと云つたが、主人公の書斎は左も右くもとして一家に四畳半なり六畳なりを仕切つて周囲に書棚を置き書棚の上には一家の何人が読んでも興味もあり利益もある書籍を列べ、壁には教育的、歴史的、倫理的若くは理化学的の有用なる図でも掛けて置いて一家共有の読書室としたらドウだらう。西洋人の家庭(中流以上の)には恁ういふ設備をした室が必ずある、近頃も独逸の――ツイ名を忘れたが――或る美術家の家庭に光明を与へよといふ画帖を見たが、恁ういふ読書室に一家が団欒してゐる図があつた。且此画帖を見て感服したのは、例へば主婦が台処仕事をしてゐながらも書物を見てをる、児童が庭に出て遊んでゐるにもポケツトに書物を入れてある。ツマリ独逸人の眼から見れば、家庭の幸福と書籍とは離れぬ縁なのだ。