結婚するとすぐに、彼は自分のしたことに落胆したような様子をした。

結婚するとすぐに、彼は自分のしたことに落胆したような様子をした。彼はそのことをあわれなルイザにもさらに隠さなかった。ルイザはいかにもつつましや かに、彼に許しを求めた。彼は悪い男ではなかった、そして快く彼女を許してやった。しかしすぐその後で、友人らの間に交わったり、または金持ちの女弟子の 家に行ったりすると、ふたたび悔恨の念にとらえられた。女弟子らはもう軽侮の様子を見せていて、彼が鍵盤(キー)の上の指の置き方を正してやろうとして手でさわっても、もはや身を震わすようなことはなかった。すると彼は陰鬱(いんうつ)な 顔付をしてもどって来た。ルイザはそれを一目見て、またいつもの非難をよみとって、つらい思いをした。あるいはまた彼は、居酒屋に立ち寄って遅くなること もあった。彼はそこで、自分自身にたいする満足と他人に対する寛容とを汲みとった。そういう晩には、からから笑いながらもどって来た。しかしそういう笑い は、いつもの口には出さない考えや胸に蓄えてる怨恨(えんこん)よりも、ルイザにはいっそう悲しく思われた。彼女は夫のそうしたふしだらにたいして、自分にも多少責任があるように感じていた。そのふしだらのたびごとに、家の金がなくなるとともに、夫の心に残ってるわずかな真面目(まじめ)さもしだいに消えていった。メルキオルは身をもちくずしていった。たえず勉(つと)めて自分の平凡な才をみがくべき年ごろに、彼はずるずると坂を滑り落ちて顧(かえり)みなかった。そして他人に地位を奪われていった。
 しかしながら、麻のような髪の毛の一女中に彼を結びつけた不可知なる力にとっては、それがなんの関係があろうぞ。彼はただ自分の役目を演じたのである。そして今や小さなジャン・クリストフが、運命の手に導かれて、この地上に足を踏み出していた。

被リンク
クレジットカードでSEO対策するぜ

カテゴリー: 未分類   パーマリンク

コメントは受け付けていません。