艇長デニー博士のよろこびは、誰よりも大きかった。火星探険協会を起こしてからここに二十五年、遂にその大事業は成功したのだ。その間、博士は、或る時は山師とあざけられ、また或る時は資金は尽きて、ナイフやフォークまで売り払わねばならなかったこともあった。
だが今やそんなことはすっかり忘れていいのである。
だが博士はこの大歓喜に酔ってばかりいるわけにはいかなかった。というわけは、博士が設計し建造したこの宇宙艇は、今漸く火星に着陸したばかりである。仕事はそれで終ったのではない。いやむしろ仕事は今後にあるのだ。
着陸したところは、地球の上ではない。勝手のわからない火星の上だ。気候、風土の違った火星の上である。空気も稀薄だ。重力もたいへん違っている。温度も激しく変る住みにくい土地だ。更に、火星においては、どんな生物にぶつかるかしれない。