三年は経過しました。
男は無事、かなりな貯金と、事業の端緒を得て女を迎へに日本の東京へかへりました。
諸氏は男が女の許へ帰るが否や、どんなにか二人の間に劇的な、再会のよろこびが叙されたかを想像することでせう。
しかし、決して、それは大変な予想違ひでありました。これは、当事者の男女に於ても殆んどその瞬間まで、夢にも想像し得られなかつた事実だつたさうです。否な当事者はまして読者諸氏にいかほどか優つた二人の激越が徐々にそのクライマックスに近づきつつあるのを感得しつつ、久々の対面の機を待ちかまへて居たか知れませんでした。
三年ぶりの対面の夜――その時間が来ました。
或る旅館の一室。
女が先へ行つて待つて居たのでした。
男が這入つて来ました。
女は男の顔を見て、小声乍らあつと叫んで男の方へ立ちそびれました
男も女の顔を見て、あつと同時に同じやうに云ひました。そして女に近づかうとしたばかりで立ちどまりました。