あくる朝になって、庄兵衛から表向きの届けが出た。妻は中間の与市と不義を働いて、与市の実家へ身を隠そうとするところを、途中で追いとめて二人ともに成敗いたしたというのである。妻の里方ではそれを疑った。与市の母や兄はもちろん不承知であった。しかし里方としても確かに不義でないという反証を提出することは出来なかった。与市の母や兄は身分ちがいの悲しさに、しょせんは泣き寝入りにするのほかはなかった。
それと同時に、与市の家へは庄兵衛の使が来て、左様な不埒者の宿許へお冬を預けておくことは出来ぬというので、迎いの乗物にお冬を乗せて帰った。その日から一本足の美しい女は庄兵衛の屋敷の奥に養われることになったのである。
何分にも主人の家が潰れるか立つか、自分たちも生きるか死ぬか、それさえも判らぬという危急存亡の場合であるから、誰もそんなことを問題にする者はなかった。