たとい小身でも陪臣でも、武家に奉公させたいと念じていたのであるが、それも時節で仕方がない、なまじいに選り好みをしているうちに、だんだんに年が長けてしまっても困る。
何もこれが嫁にやるという訳でもない、長くて二年か三年の奉公である。こういう奉公口を取りはずして後悔するよりも、いっそ思い切ってやった方がよかろうと決心して、何分よろしく頼むと挨拶して帰って来た。 帰ってゆっくりとその話をすると、お光にも別に故障はなかった。 「兄さまさえ御承知ならば、わたくしは何処へでもまいります」 すなおな妹の返事を聞くと、栄之丞も何だかいじらしいような暗い心持ちになった。自分がまじめに家の芸を継いでいれば、家には相当の禄も付いている。貧乏しても奉公人の一人ぐらいは使っていられるのに、今はその妹が却って町人の家へ奉公に行く。妹にはなんの罪もない。悪い兄をもったのが禍いである。結構な口を見付けたといいながらも、兄の心はやっぱり寂しかった。 「わたくしが居なくなりますと、兄さまおひとりではさぞ御不自由でございましょう」と、お光も寂しそうに言った。