あとあとのこともいろいろござるに因って、今夜のことは何分御内分に……

と、長八は住職と医者に頼んだ。彼等もその事情を察しているので、異議なく承知した。

医者は承知、寺の方も住職が承知した以上、他の僧らも口外する筈はあるまい。残るは火の番の藤助である。彼にも口留めをして置く必要があるので、長八は伜に云いつけて藤助を探させたが、その姿は見えなかった。  寺の話によると、彼は医者を迎えに行ったままで帰らないと云う。彼は医者の門を叩いて急病人のあることを知らせ、その帰り途で長三郎に出逢ったことまでは判っているが、それから寺へも帰らずに何処へ行ってしまったのかと人々も少しく不審をいだいたが、この場合、その詮議に時を移してもいられないので、長八は住職と相談の上で近所の駕籠を呼ばせ、急病人の体にして伝兵衛の死骸を運び出すことにした。そうした秘密の処置を取るには、暗い夜更けが勿怪の仕合わせであった。  これで先ず死骸の始末は付いたが、長八の一存で万事を取り計らうわけにも行かないので、彼は組じゅうでも特別に親しくしている四、五人に事情を打ち明けて、とりあえず急養子の手続きを取ることになった。

CSR 顎から先に生まれる

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