夏休みが終わろうとする直前に、この新駅の白いホールを飾る壁画の除幕式があり、市長が臨席してテープ・カットが行われた。
この壁画は新駅の工事の仕上げとして最後まで残されていたもので、縦一〇メートル横一五メートルはある、ずいぶん大きな壁画だった。その壁だけは新駅が工事を終えてからもしばらくの間、工事用の幕に覆われていたのだ。完成した壁画の図柄は、表面がざらついた色付きの化粧レンガを、床から高い天井に届くまで、色の組合せに何の脈絡も与えようとせずに何百個となくぶちまけたような奇妙に乱暴なもので、原画を描いたのは、市長がパトロンになっているという噂と、この町に支部を持つ、左翼政党の急進的な分派の一員だという噂と両方ある、いつも黒いサングラスをかけた若い前衛画家だった。そして彼は、僕の学校の美術教師でもあったのだ。 その朝、完成されたばかりの巨大な壁画の前に四つか五つの脚立が置かれ、それに昇った駅員たちがモップを振りかざし、必死になって壁画と戦っている、ように、僕には一瞬見えた。