名を呼ばれるさえ嬉しいほど

 名を呼ばれるさえ嬉しいほど、久闊懸違っていたので、いそいそ懐かしそうに擦寄ったが、続いて云った酒井の言は、太く主税の胸を刺した。
「どこへ行くんだ。」
 これで突放されたようになって、思わず後退りすること三尺半。
 この前の、原一つ越した横町が、先生の住居である。そなたに向って行くのに、従って歩行くものを、(どこへ行く。)は情ない。散々の不首尾に、云う事も、しどろになって、
「散歩でございます。」
「わざわざ、ここの縁日へ出て来たのか。」
「いいえ、実は……」
 といささか取附くことが出来た……
「先刻、御宅へ伺いましたのですが、御留守でございましたから、後程にまた参りましょうと存じまして、その間この辺にぶらついておりました。先生は、」
 酒井がずッと歩行き出したので、たじたじと後を慕うて、
「どちらへ?」
「俺か。」
「ずッと御帰宅でございますか。」
 知れ切ったような事を、つなぎだけに尋ねると、この答えがまた案外なものであった。
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