振袖が朗な声して

 振袖が朗な声して、
「まあ、貴方、なぜおじぎをなさらないの。さっきは、法界屋にも、丁寧に御挨拶をなすったのに、貴いお上人さんの前にさ――」
「おちかさん。」
 多津吉は、盥のごとき鉄鉢を片手に、片手を雲に印象した、銅像の大きな顔の、でっぷりした頤の真下に、屹と瞳を昂げて言った。
「……これは、美術閣の柴山運八と、その子の運五郎とが鋳たんだよ。」
 波頭、雲の層、累る蓮華か、象徴った台座の巌を見定める隙もなしに、声とともに羽織の襟を払って、ずかと銅像の足の爪を、烏の嘴のごとく上から覗かせて、真背向に腰を掛けた。
「姓は郡です……職人近常の。……私はその伜の多津吉というんだよ。」
「ああ多津吉さん。」
 その肩を並べて、莞爾して並んで掛け、
「まあ、嬉しい……御自分で名を言って下すったのは、私の占筮が当ったより嬉しいわ。そうして占筮は当りました。この大坊主ったら、一体誰なんです。」

川崎 歯医者 同じ釜の飯を食う

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