最初の一日

 僕は最初の一日を、今日から自分のものになった椅子の上にのびのび腰を下し、さて何を研究したものかと考え始めたが、一向に纏りはつかず、考えれば考えるほど、今日の帰り路は、どう取って、定刻までに信濃町まで出たものかと、そればかりが気になりだした。ところへヒョックリ四宮理学士が姿をあらわして、これから所内を案内するから附いて来給えと言う。僕は喜んで椅子から立ち上って一緒に廊下へ出た。学術雑誌で名前を知っている偉い博士たちの研究室が、納骨堂の中でもあるかのように同じ形をしてうちならび、白い大理石の小さい名札の上にその研究室名が金文字で記されてあった。最後に豊富な蔵書で有名な図書室とその事務室とを案内してくれることとなった。先ず事務室へ入ると大きい机が一つと小さい机が一つと並んでいる外に和洋のタイプライター台があった。そして四方の壁には硝子戸棚が立ち並んで、なんだか洋紙のようなものがギッシリ入っていた。大きい机の前には一人の二十五六にも見える婦人が、黒い着物に水色の帯をしめて坐っていたが、四宮理学士が声をかけると共にこちらへ立ち上って来て、
「わたくしが佐和山佐渡子でございます」と丸い肩を丁重に落して挨拶した。

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