作業場へ入ると、私は一同に準備を命じた

 作業場へ入ると、私は一同に準備を命じた。私は組長だったから、作業の初めにあたって、一同の面倒を見てやるため、あっちへいったり、こっちへ来たりすることが許されていた。
「オイ、材料を見せろ」
 と私は痩せギスの青年に云った。
「へえ、これだけ出来ています」
 私はその紙風船の花びらの束を解いて、パラパラと引繰りかえしていたが、
「おい、一枚足りないぞ」
「え?」
「ナニ、いいよいいよ」と私は云いながら、隅ッこに駄目な花びらが乱雑にまるめてあるところへ寄った。そして中から、一枚の柿色の花びらを取った。「こいつを入れとこう」
「それは駄目です」
 柿色の花びらというのは、実は不合格にすべきものだった。それは蝋紙の黄の上に、間違って桃色が二重刷になったものだった。これは二色が重なって、柿色という思いもかけぬ色紙になった。元来すこし位、色が変わっても、子供の玩具のことだからいいことになっているのだが、柿色という色は囚人の制服と同じ色であるところから、われわれ囚人の方で厭がってハネることにしているのであった、それは看守も大目に見ていたのだった。

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