お身の味方というは

「お身の味方というは唐土におよそ幾人でござりまする……。」
「はは、幾人……」と、男は肩をゆすって大きく笑った。「幾百人、幾千人、とても数え尽くさりょうか。この教えを奉ずるものは、親が子に伝え、子が孫につたえ、子々孫々の末までも、悪魔の心を心として、世を呪い、人を呪うを務めとするのじゃ。ある者は世を逃がれて岩窟にかくれ棲むもある、ある者は博学の秀才として世に時めくもある。大商人として燕京のまん中に老舗を構えているものもある。ほかには僧もある、道士もある。漁師もある、百姓もある。うわべは唯の人として世に住みながら、ひそかに先祖以来の教えを堅く守って、たがいに機密を通じているのじゃ。その幾千人の中から選ばれてこの国に渡来したわれらは、まず足利尊氏の兄弟を呪うて、かれらを第二の北条に仕立てた。こうして、ふたたび日本の世をかき乱して、邪魔になる忠臣の正成をほろぼし、義貞を殺し、悪魔はいよいよ威勢を振うて、津々浦々に兵乱やむ時なく、家は焼かれ、人は疲れ、天も晦く、地も冥く、世は常闇となることを祈っている。こうまで言い聞かせたら、われらの身の上も、われらの望みも、大方は判ったであろうが……。」
小坂部は息をつめて、その一言半句を聞き洩らすまいと耳を傾けながら、片手は胸に忍ばせた懐剣の柄を固く握りしめていた。

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