木の音はつづいてきこえるが

木の音はつづいてきこえるが、幕はなかなかあかない。最初からかしこまっていた観客は居ずまいを直し、外から戻って来た観客はようやく元の席に落ちついた頃になっても、舞台と客席とを遮る華やかな大きい幕はなおいつまでも閉じられて、舞台の秘密を容易に観客に示そうとはしない。しかも観客は一人も忍耐力を失わないらしい。幽霊の出るまえの鐘の音、幕のあく前の拍子木の音、いずれも観客の気分を緊張させるべく不可思議の魅力をたくわえているのである。少年もその木の音の一つ一つを聴くたびに、胸を跳らせて正面をみつめている。
 幕があく。『妹脊山婦女庭訓』、吉野川の場である。岩にせかれて咽び落ちる山川を境にして、上の方の脊山にも、下の方の妹山にも、武家の屋形がある。川の岸には桜が咲きみだれている。妹山の家には古風な大きい雛段が飾られて、若い美しい姫が腰元どもと一所にさびしくその雛にかしずいている。脊山の家には簾がおろされてあったが、腰元のひとりが小石に封じ文をむすび付けて打ち込んだ水の音におどろかされて、簾がしずかに巻きあげられると、そこにはむらさきの小袖に茶苧の袴をつけた美少年が殊勝げに経巻を読誦している。高島屋とよぶ声がしきりに聞える。美少年は市川左団次の久我之助である。

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